意味不明とは言わせない!『ヘレディタリー継承』16の伏線を徹底解説&考察します【ネタバレ注意】

『ヘレディタリー』解説・考察
『ヘレディタリー』解説・考察

アリ・アスター監督の長編デビュー作品にして、ホラー映画の古典に勝るとも劣らない(と私は思っている)傑作『ヘレディタリー/継承』。

ホラー映画が大好きすぎる友人に勧められて、上映終了間際のレイトショーで鑑賞してきました。

その結果、

ISSE
この映画を知れてよかった!映画館で観れて本当によかった!!

と久々に思える、思い出の作品になりました。

  • 名作ミステリー映画にも匹敵する伏線の数々と、ほぼすべての見事な回収
  • 複数回見るとさらに面白くなる、ある意味で爽快なストーリー
  • 目や耳じゃなく、雰囲気で怖がらせる上質な演出
  • アリ・アスター監督の重すぎる過去のトラウマと、それに対する共感
  • そのトラウマをホラー映画に仕上げてしまう、アスター監督の才能

『ヘレディタリー』の好きなところは、本当にたくさん。

個人的にですが、正統派のホラー映画としてA級・S級の完成度でした。

この記事では、

  • 序盤から張られていた16個の伏線
  • それら伏線の解説・考察
  • アリ・アスター監督の手腕とトラウマ

以上の3つを中心に『ヘレディタリー/継承』を徹底解説していきます!

この記事は『ヘレディタリー』のネタバレがてんこ盛りです。

まだ鑑賞していない方は、まずは本編をじっくりとご堪能ください。

考察1|悪魔「ペイモン」は実在する。

《ヘレディタリー》に登場する、悪魔「ペイモン」。

実はペイモン、ヘレディタリーのために作られた架空の存在ではなく、実在(?)するノンフィクションの悪魔なのです。

まずは《ヘレディタリー》の、ペイモンの印をご覧ください。

そして以下が、魔術書「グリモワール」に記載されている、ペイモンの印。

ヘレディタリー/継承
ISSE
完 全 一 致 。

グリモワールとは、悪魔や天使を呼び出したり、魔術や呪術について書かれている書物のこと。

  • 魔術書「ソロモンの鍵」
  • 召喚呪文「エロイムエッサイム(我は求め訴えたり)」

などなど、どこかで聞いたことがある言葉の元ネタである、有名な魔術書です。

ペイモンが実在するかどうかはさて置き、こうした背景をしっかり調べた《ヘレディタリー》だからこそ、リアリティがあって怖かったですね。

ちなみに、ペイモンの見た目は「女性の顔をした男性の姿で、王冠を被っている」とされています。

  • 女性の顔
  • 中身は男性
  • 王冠を被っている

と、いえば………、

まさに、結末のこの姿!

アスター監督が悪趣味だからじゃなくて、この姿にもちゃんとした理由があるんです。

果たして、召喚は成功したのでしょうか…?

考察2|悪魔・ペイモンはどのタイミングで召喚された?

ペイモンが召喚(完全に解放)されたタイミングは、アニーが自宅で降霊術を行ったとき。

  • この直後から、超常現象が一気に加速していく
  • ペイモン信者のジョーンが、アニーに儀式を行うよう仕向けた

というところが、降霊術の完了=ペイモン完全解放の根拠です。

序盤から、いや、なんなら物語の始まり以前から、実はペイモンはず~っと外に出ようとしていたのです。

ISSE
このオバサンといい、《ミッドサマー》のアノ人といい、一見無害そうな人ほどヤバイ奴って描写がいいですね。

人間不信まっしぐら。

考察3|復活前のペイモンはどこにいた?

降霊術によって復活するまでのペイモンは、実はチャーリーの体内に囚われていました。

後で詳しく解説しますが、

  • アニーの「生まれた時でさえ泣かなかった。」という発言
  • 舌を”コッ”と鳴らす、普通ではないクセ(クリッカー音)
  • チャーリーの死後に見える、彼女の幻影・幻聴

これら超常現象や伏線の多くがチャーリーに関係しているのは、「彼女とペイモンにつながりがある=実は体内にいた」ことを暗示していたのです。

考察4|実在する?降霊術「チャーリーゲーム」

チャーリーという名前は、メキシコ発祥の降霊術「チャーリーゲーム」に由来しています。

チャーリーゲームのやり方(自己責任!)

  1. チャーリーゲームに必要な準備を済ませる
  2. 参加者全員で「Charile, Charile, Are You here?」と唱える
  3. 準備した物が独りでに動いたら、召喚成功

ゲームを終える時に「Charlie, Charlie, Can we stop?」と唱えて、霊が消えたことを確認しないと、降臨した霊に乗り移られると言われています…。

《ヘレディタリー》における降霊術は、このチャーリーゲームがモチーフとなっています。

考察5|チャーリーが「生まれた時でさえ泣かなかった」理由

母・アニーの、

あなた(チャーリー)は生まれた時でさえ泣かなかった

というセリフ。

実はこれも、ペイモンが体内に宿っていることの伏線でした。

生まれた瞬間からこれまで、ず~~っと泣いたことがないというのは、明らかに不自然ですよね。

このセリフはチャーリーの異常性を示しており、生まれた時からペイモンが宿っていたことを暗示しているのです。

ISSE
《ミッドサマー》も顕著でしたが、アスター監督の作品は、こうした何気ないセリフが重要な伏線だったりします。

初鑑賞中は、頭フル回転です(笑)。

考察6|チャーリーが鳴らす”コッ”という音の秘密

チャーリーが舌を使って”コッ”と鳴らす音は、「クリッカー音」と呼ばれています。

このクセ、両親がどれだけやめさせようとしても直りませんでしたね。

それもそのはず、このクリッカー音もペイモンが宿っていることを暗示しているからです。

その根拠は、ペイモンが召喚された後、窓から飛び降りたピーターの体内に、光がス~ッと入り込んだシーン。

そこでピーターは、チャーリーと同じように”コッ”とクリッカー音を鳴らしています。

この演出によって、クリッカー音はただのクセではなく、ペイモンが宿っていることを示すものだったことが分かります。

考察7|生後すぐにピーターが狙われなかった理由

映画を見ると分かりますが、ペイモンは、直系の男性に乗り移る悪魔です。

はて、映画を見終わった後、

映画パンフ情報部
ピーターが生まれた直後に乗り移ればよかったんじゃ……?

と、私は最初疑問でした。

映画の中で、乗り移れない理由を言っていたのにも関わらず…。

生後すぐにピーターに乗り移れなかった理由は、祖母・エレンに「不干渉ルール」が設けられていたため。

このルールによって、エレンはピーターに近づくことができず、さらには儀式の前に亡くなってしまったため、エレンは自らペイモンを宿すことができなかったのです。

だからエレンは、チャーリーに対してず~~っと、

男の子になってほしい」「男の子になってほしい」「男の子になってほしい」「男の子になってほしい」「男の子になってほしい」「男の子になってほしい

と言い続けていたのです…。

考察8|「男の子になってほしい」

祖母・エレンが、チャーリーに何度も「男の子になってほしい」と言っていた理由。

これは、チャーリーが男になればペイモンの召喚条件(=直系の男性に宿ること)を満たせるから。

  • 性転換すれば降霊できるのか?
  • 本人が「自分は男だ」と認識すればいいのか?

この辺りは定かではありませんが、

  • 家族が不干渉ルールを設けた理由
  • エレンの本気度
  • エレンの異常性

などは、この背景から察することができますね…。

考察9|首吊り自殺をした「兄」もヒントだった

序盤にサラッとしか語られない、兄・チャールズの存在も、実は重要な伏線だったのです。

チャールズは、

母さん(エレン)は自分の中に”何か”を招き入れようとした

という遺書を残して、首吊り自殺をしています。

この”何か”とは、もちろんペイモンのこと。

直系の男性であるチャールズに乗り移らせようとしたが、自殺したことで失敗します。

そして、その矛先が孫のピーターに向かった、というわけですね…。

考察10|直系でない父・スティーブの存在

ペイモンの宿主は、

  1. 男性である
  2. 召喚者の直系の家族である

上記の2つの条件を満たす必要があります。

この一家でいうと、

  • チャールズ
  • ピーター

この2人ですね。

King Paimon is a male, thus covetous of a male human body.
(ペイモンは男性である、したがって人間の男性の体が必要である。)

父・スティーブは、男性ではありますが、直系の子孫ではないため、降霊の条件を満たしていません。

ISSE
だったら焼殺する必要ないんじゃ?

という疑問に対する答えは、スティーブが最後まで理性的だったからです。

ペイモンとしては「スティーブを生かしておいたら降霊術が行われない」と判断したのでしょう。

ISSE
ホラー映画って、しっかりした人ほど残酷な目に遭いますよね。

考察11|女性の頭を捧げること=ペイモンの召喚条件?

  • 祖母・エレン
  • 母・アニー
  • 孫娘・チャーリー

この3人とも、ペイモンの降霊時「頭が無くなる」という共通点がありました。

直系の女性の頭を捧げることも、ペイモンの召喚条件だった可能性が考えられます。

ISSE
だとすると、エレンは自らを生贄に捧げてでもペイモンを召喚したかった、ということに…。

だからこそ、ペイモンの信者たちから讃えられていたのでしょうね。

考察12|チャーリーの自動車事故の真相

チャーリーの自動車事故は、ペイモンの信者による呪いでした。

事故のシーンでど真ん中に映る電柱を、よ~~く見てみましょう。

はい、ペイモンの紋章が描かれていますね。

また、この事故の前にピーターとチャーリーが参加したホームパーティは、「実はペイモン信者が仕組んだもの」とも考察できます。

あらかじめ木柱に紋章を描いておき、アニーとピーターをうまく誘い出し、生贄のための首をいただく…。

パーティにはそんな目的があったのかもしれません。

考察13|アニーが作るミニチュアは「理不尽さ」の象徴

アニーが熱心に作り続けている、精巧なミニチュア。

このミニチュアは「理不尽さ」の象徴として描かれています。

そのメッセージは、主に以下の3つ。

  1. アニーたちは、外界(悪魔や超常現象)の支配を受ける運命にある
  2. 外界からは、ミニチュア(アニーたちの世界)を思うままに操ったり壊したりできる
  3. こちらの世界から外界には、一切の手出しできない

この超次元的な支配をミニチュアで表現することで、《ヘレディタリー》のテーマである「理不尽さ」が強調されています。

アニーたちが助かる唯一の方法は、ペイモンを降霊しない(=外界と接触しない)ことだけだったのです…。

考察14|壁に書かれた文字の謎

物語の中盤に映る、壁に書かれた、

  • Satony
  • Zasas

という2つの文字。

それぞれ、

  • Satony(サトニー)…死者と交信するための言葉
  • Zasas(ザザス)…悪魔「コロンゾン」を呼び出す時の言葉

このような意味がありますが、ペイモン召喚になぜコロンゾンが出てくるかは、謎…。

考察15|ペイモンの勝ち誇った笑み

ピーター本人の表情とは異なる、ガラスに映る彼の、不敵な笑み。

この教室で起こる一連のシーンにて、ペイモンはついに、ピーターを操るほどの力を発揮します。

するとこの笑顔は、解放寸前であることを見せつける勝利の笑みにも見えますね…。

考察16|ピーターに被された「王冠」

この世に降臨したペイモンは、王冠を被った姿で現れるとされています。

映画の結末は、信者がペイモンを讃え、まるで降臨を象徴するかのように、ピーターに王冠を被せて終わります。

ペイモンはついに、この世に降臨してしまったのでしょうか。

理不尽がテーマの《ヘレディタリー》らしく、バッドエンドのニオイがプンプンします……。

まとめ

伏線と疑問 答えと解説
ペイモンは実在する ヘレディタリー/継承
ペイモン解放のタイミングは? 降霊術直後
チャーリーゲームとは? メキシコ発祥の降霊術。
「生まれた時でさえ泣かなかった」理由 生まれた時からペイモンが宿っていたから。
チャーリーが鳴らす”コッ”の秘密 ペイモンが宿っていることの暗示。
生後すぐにピーターが狙われなかった理由 不干渉ルールがあったため。
「男の子になってほしい」
  • エレンの異常性を示すため
  • 不干渉ルールを設けたきっかけ
首吊り自殺をした「兄」の存在 「母さんは、自分の中に何かを招き入れようとした。」
直系でない父・スティーブ 降霊の妨げになるため、焼殺。
女性の頭を捧げる=ペイモンの召喚条件? 直系の女性全員の頭が無くなり、儀式にて捧げられていたため。
チャーリーの自動車事故の真相
アニーのミニチュアは「理不尽さ」の象徴
  1. 外界(悪魔や超常現象)の支配を受ける運命にある
  2. 外界からは、ミニチュア世界を思うままに操れる
  3. こちら(ミニチュア世界)からは、外界に一切手出しできない
壁に書かれた文字の謎
  • Satony(サトニー)
  • Zasas(ザザス)
ペイモンの勝ち誇った笑み 力を取り戻しつつあるペイモンの、勝利の笑み。
ピーターに被された王冠 降臨したペイモンは、王冠を被った姿で現れる。

冒頭でも語った通り、自分が思う《ヘレディタリー》の魅力は、

  • 悪魔召喚にも、フィクション作品なりの理由や根拠がある
  • 上映開始直後から結末まで、伏線という伏線のオンパレード
  • 張りまくった伏線を、ほぼすべて回収する見事な作り

という映画の作り込みはもちろん、アリ・アスター監督の痛切な思いを感じられたからです。

《ヘレディタリー》を製作したきっかけについて、アスター監督はこう語っています。

不幸によって家族の絆が強まるという映画が大半を占めており、それも嘘ではないと思いますが、不幸が起こりそこから立ち直れない人たちがいるのも真実です。私は後者についての映画を作りたいと思いました。

《ヘレディタリー 継承》パンフレットより

この、ひねくれた視点というか、不幸な人の立場から見た「家族」の描き方が、自分は本当に大好き。

ストーリー的には、完全にバッドエンド。

しかし、家族という抗えないつながりが、超常的な力によって一瞬にして消し去られる今作は、見る人によってはハッピーエンドです。

「家族だから助け合わなきゃ」

という無条件に与えられたつながりに苦しんでいる人には、《ヘレディタリー》は癒しになったんじゃないでしょうか。

4 件のコメント

  • 笑みを浮かべるシーンではまだペイモンは乗り移っていないはずです。
    クリッカー音と矛盾してますよね。

    あのシーンはピーターが精神障害を発症したことを暗示するシーンだと思います。

    • あさん
      コメントありがとうございます。

      これは完全に記載ミスですね…。
      それ以前に乗り移ったタイミングを書いておきながら、それと異なる記載をしていました。
      現在、こちらは修正済みです。
      ご指摘いただきありがとうございます。

  • 大変楽しく読ませて戴きました
    本日鑑賞をしたのですがひょっとしてピーターが誘われたパーティのメンバーはペイモンの信者だったのではと記憶を手繰っています
    でもって気がついたのですが最後にピーターを跪拝している男性は葬儀のときにいましたよね?

    • ュキだんさん
      コメントと、記事を楽しくお読みくださりありがとうございます!

      「パーティのメンバーはペイモン信者説」は面白いですね!
      このシーンはチャーリーがアレルギーを起こすきっかけで、それ以上の意味はないと思っていましたが、その帰りにチャーリーが生贄にされることを考えると、
      ①ペイモン信者がチャーリーとピーターをパーティに誘った
      ②その道中の電柱に生贄のためペイモンの紋章を記した
      ③チャーリーが死に、ペイモン信者の目的達成
      という流れは筋が通りますね。

      「実はすべてが仕組まれていた」というのはアリ・アスター監督ならやりそうです…。
      深い意味は無くとも、こう考察させることもアスター監督の手のひらの上なのかもしれません。
      パーティはペイモン信者が仕組んだものという可能性はありますね!

      エレン(祖母)はペイモン信者の中でも特に格が高かったようですので、葬儀にはペイモン信者が来ています。
      私も男性1人が葬儀にいたことは記憶しているのですが、葬儀や他のシーンにももしかしたらペイモン信者が何気なく映っていて、最後のペイモン降臨のあの場所にいたかもしれませんね。
      イースターエッグ的な楽しみ方ができそうです。
      今後はこのことにも注目しながら、また観てみたいです!

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